『小説家になろう』におけるテンプレートについてという記事で少し話しましたが、おもしろいものの本質を見るのには、『小説家になろう』のランキングはなんだかんだ良いものです。
わたし自身あまり『なろう』を読まなくなってしまったので、
- 最近の潮流を知る
- 単純に楽しむ
という二つの観点から、おもしろそうなものを読んでレビューしてみようかな、ということで記事にしてみました。
また、一読者としての普通のレビューだとおもしろくないので、執筆歴13年以上で、出版経験があって、いまだに「あわよくばいっぱい書籍化したい」と望んではばからない作家としてのわたしが、どういうふうに作品を見ているかも書こうと思います。
簡単に言うと、
- 読者目線でのレビュー
- 作家目線でのレビュー
の二つの観点からレビューします。


ともあれ、おもしろい作品を探している読み専(読むの専門)の方も、おもしろい作品が書きたいと思っている作家の方も、それぞれ参考にしていただければ幸いです。
ということで今回は『その悪役令嬢は攻略本を携えている』のレビューになります。
[box class=”box32″ title=”本作品の諸情報”]
- 第一部完結済み
- ちょっとひねった悪役令嬢モノ
- 2019年8月19日時点の日間総合ランキング2位
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その悪役令嬢は攻略本を携えている
作品名:その悪役令嬢は攻略本を携えている
投稿サイト:小説家になろう
URL:https://ncode.syosetu.com/n6554fr/
あらすじ
ある日、その世界が地球の『乙女ゲーム』の世界であることを知らされたレベッカという少女が主人公。
誰からそれを知らされたのかといえば、地球からの転生者だった母である。
レベッカは、いずれ自分が『悪役令嬢』として『物語上の主人公たち』に断罪され、悲劇的な結末を迎えることを知る。
しかし、レベッカはすべての結末を知る転生者である母から、この乙女ゲームの攻略本をもらっていた。
「絶対にシナリオどおりにはさせない」
レベッカは母から受け継いだ攻略本を携えて、強く生きることを決意する。
この作品のここがすごい!
悪役令嬢モノは転生者がなることがとても多いですが、その娘が悪役令嬢という点にひねりがあって、導入部分としておもしろく読めました。
悪役令嬢モノがどんなものであるかある程度知識のある人用に書かれている印象がありますが、とはいえ『悪役令嬢』がどういう存在であるかはちゃんと説明しているので、そこまで違和感はありません。
それになにより、文章のレベルがめちゃくちゃ高くてすいすい読めるのが大きい。
以下でくわしく説明しますが、全体的に完成度がめちゃくちゃ高いです。
文章がうまい・読みやすい
これは小説書くのがはじめての人の文章ではない。
というか漢字のひらき方や語尾の現在形過去形の散らし方を見るに、「これプロじゃね?」って思うレベル。
現時点で文字数が12万を越えているが、その投稿間隔はわずか2日。
書きためて、文庫本一冊分の文量がたまったところで投稿したみたい。


タイトルがキャッチー
とにかくタイトルがキャッチー。
最近の作品はキャッチーにするために比較的タイトルが長くなる傾向があるけど、この作品は適度な長さながら絶妙なキャッチーさを保っている。


タイトルと中身が一致している
タイトル回収が早い。
「なるほど、そういうことか」「うまいな」と思いました。
タイトルで興味が湧いて訪れた読者に対して、「これはちゃんとこういう物語ですよ」と伝えるのは大きな効果があります。
「思ってたのと違う」はそこで読む手を止めさせてしまう原因のひとつです。
また、タイトルと中身が一致することで、物語自体にしっかりとした軸が生まれます。
物語に軸があると全体が引き締まるので、本当によくできてるなぁと思いました。


悪役令嬢モノとしてのひねり方が絶妙
悪役令嬢モノといえば、転生者自身が悪役令嬢モノになるのが基本だけど、この作品はそこから少しひねって、転生者の娘であるレベッカが悪役令嬢になる作品。
このひねりかたがうまい。
テンプレを活用しつつ、「ちょっとほかと違う」の演出が絶妙でした。



物語のテンポが良い
冒頭から話が動き出すまでにかけての話のテンポがとてもいいです。
急ぎすぎず、溜めすぎず、適度に状況の説明を入れながら進みます。
このバランスがまた絶妙で、とても読みやすかった。
主人公の動機づけもしっかりしている
常日頃から自分に向けても言っている主人公の動機づけ。
それがこの作品でもしっかりなされています。
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主人公がどういった目的意識をもって作中世界を生きているかがわかると、読者もどの視点にたって物語を読めばいいのかがハッキリしますし、キャラクターのブレのなさにもつながるのでとても大切。
この物語では、主人公レベッカの「悪役令嬢のシナリオどおりにはさせない」という強い反骨芯が動機になっており、その背景として母の死も関係しています。
早い段階でこういう主人公の軸となる動機を見せていたのもすばらしかったです。
この作品のここに学ぶ!
「すごいところ」に挙げたのは全部良い点なので、すべて学ぶべき点です。
でも、逆に読んでいて「ここが気になった」という点からも学べる部分があるので、一応そこも自分の作品に活かすために書いておくことにします。



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でも、これはわたしのためでもあるので「ちょっと気になった点」も書くようにします。もし作者さんが見ていても、あくまで「わたしが思うこと」なので、あまり深く考えないようにしてください。

早い段階で登場人物が増えた
物語への入り具合にもよりますが、最初のほうの『春の行事』において、登場人物が増えたあたりが少し混乱しました。
『行事』の性質上偽名を使うあたりも相まったものだと思います。
新しく表れたイケメン二人について、どっちがどっちだかわからなくなったのがちょっともにょっとしました。
物語の進み具合に応じたキャラ数が重要
これはわたし自身すごーくよくやってしまうことなのですが、物語の進み具合に応じて適切なキャラクターの数というものがあります。
急にあっちもこっちも新しいキャラクターを出したのでは読者が対応しきれません。
どうしても必要であれば、おおげさなくらいわかりやすく特徴づけをして、「こいつはこいういやつ!」というのを一目でわかるようにするのが重要かな、と思いました。
キャラクターの呼び名はできれば固定する
偽名を使うシーンはもとより、会話中であだ名で呼び合うのも最初は避けたほうがいい気がします。
のちのち話が進んで、「こいつはこいつのことをこう呼ぶ」というのが浸透すれば違和感なく読めますが、最初は地の文と会話中の名前の差異で混乱が生じやすいです。


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まとめ
というわけで『その悪役令嬢は攻略本を携えている』のレビューでした。
全体的にめちゃくちゃ完成度が高くて、「これ、プロの犯行では?」とすこぶる思いました。
実際にどうなのかはわかりませんが、いずれにしても無料でこのレベルの小説が楽しめるのは本当にうれしいことです。
かなりレベルが高くて学ぶ点もとても多かったので、読み専の人も作家の人もぜひ読んでみてください。
ではでは。
作品名:その悪役令嬢は攻略本を携えている
投稿サイト:小説家になろう
URL:https://ncode.syosetu.com/n6554fr/