異世界モノの距離の単位はどうすればいいのか【メートル?オリジナル単位?】
やあ、葵です。(@Aoi_Yamato_100)
異世界モノの作品を書いている諸君。
ふと距離について書こうとして筆が止まった経験はないだろうか?
メートル法を提案したかのタレーランは異世界には存在しない。
そもそも最初は地球の北極から赤道までの距離を基準にしていたから、土台(星)が違ければ長さも異なる。
などなど、わたしはない頭をふりしぼって考えた経験があります。(メートル法が気になる方はこちら>>>【メートル法の定義は?歴史は?】)
ともあれ、せっかく乗っていた筆もこういう小さな疑問が浮かぶとつい止まってしまうもの。
では、「実際にどっちを使ったほうがいいのか?」ということについて今回はわたしなりに考えてみようと思います。
メートルもオリジナル単位も互いにメリットデメリットがあるので、自分の作品や自分の考えに合致するほうを選んでみてください。
最後に余談で上級者向けの方法もご紹介します。
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異世界モノの距離の単位はメートルか、オリジナルか
メートルでもオリジナルでも、互いにメリットとデメリットがあります。
メートル法のメリット・デメリット
まずはメートル法のメリットとデメリットについてあげてみましょう。
メリット:わかりやすい
読者目線に立ったとき、オリジナル単位よりもメートル表記のほうが圧倒的にわかりやすいです。
これは能動的な作業を強いる媒体(特に小説)において大きなメリットです。
そもそものはなし、文字を読むということに一定のエネルギーを必要とするのに、さらにそこに自分の知らない新しい単位なんてほうりこまれた日には、脳がパンクします。(え? しない? わたしはヤード・フィート表記ですらする)
単位を表記するということは、作者は読者に対してその大きさや距離を伝えたいということ。
で、その作者の考える大きさを的確に伝えるのに、実際に現実世界で使われているメートル法ほど適したものはありません。
ほかの記事でも繰り返していることですが、わかりやすさは正義です。
もしそこまでこだわりがないのであれば、とりあえずメートル法を使っといたほうが無難だと思います。
デメリット:急に現実に引き戻される
あとにも先にもこれだと思います。
異世界モノなのに異世界感がなくなる。
異世界モノになにを求めるかにもよりますが、基本的に読者は「ここではないどこかにいる」という異世界感(非日常感)を求めているはずです。
それまで良い感じにその世界に没入できていたのに、急にメートルという単位を現地人が使いはじめたら違和感を覚えるでしょう。
もちろんそうでない人もいるとは思いますが、できるだけそういう物語への没入をさまたげる要素は排除しておくに越したことはない。
そういう観点でみると、メートルを使うこと(もちろんグラムなども同じ)は、デメリットになりえます。
とはいえ、これを回避する方法もあるので、次に説明しましょう。
解消法:一人称視点にする
これは異世界転移、異世界転生モノにかぎりますが、主人公が日本人であった場合は語り手を一人称にすることで多少違和感をなくせるでしょう。
読者も主人公が日本人であることを知っていれば、さほど違和感は覚えないと思います。
しかし、これはこれで結構気を使う必要があって、たとえば現地人のキャラクターと会話をする場合。
主人公「でかい鉱石だな。一メートルくらいはあるか?」
現地人「いやいや、もっとあるね。一メートル半はある」
貴様どこでメートル法を知った。
さては現地人になりすました別の転生者だなッ!?(そして新たな物語がはじまる)
と、このように気を抜いた途端にボロが出る。
おちおち主人公と現地人で長さとか重さとかの話をさせられない。
地の文での表現は意識せずに済むけど、逆に会話文で気を使わなければならないので、五分五分という感じでしょうか。
オリジナル単位のメリット・デメリット
次にオリジナル単位のメリットとデメリットを挙げてみます。
メリット①:異世界感をそこねない
メートルのデメリットのそのまま逆ですね。
単位までオリジナルなら物語上の「異世界感」をそこねることがありません。
急にメートルが出てきて「作りもの感」を感じてしまうこともなくなるでしょう。(そんな作者の考えまで見透かされるとどうしようもないけれど)
ともあれ、異世界転移転生モノの一人称であっても、主人公がどこかでその世界の単位になじむ節を入れておけば、違和感なく溶け込むはずです。
物語や世界への没入をさまたげる心配がないというのは、当然ながら異世界モノにおけるオリジナル単位の大きなメリットだと思います。
メリット②:表現に関して気を使わなくて済む
さて、一度決めてしまえばこっちのもの。
その世界においての単位をオリジナル単位にしてしまえば、書くときに必要以上に気を使う必要がなくなります。
もちろん作者の単純な記載誤りをのぞけば、表記ゆれなどもなくなって統一感も出る。
地の文でも会話文でも特段に気にして単位を書かなくて済むようになるのは、作者側からしても大きなメリットです。
何度も言うが作者が表記ミスをしなければな!!
誤字脱字は創作者にとってつぶしてもつぶしても減らない悩みの種ですが、こういうクリティカルな部分に関しては特に意識したほうがいいでしょう。
誤字脱字との戦い方はこちらの記事を参考に!
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デメリット:覚えづらい、想像しづらい
作者側からするとメリットの大きなオリジナル単位ですが、読者にとってはデメリットも大きい点は無視できません。
そのデメリットというのがやはり「覚えづらさ」「想像しづらさ」です。
わたしは一時期よくアメリカ産のファンタジー小説を読んでいたのですが、その作中ではよく「ヤード・フィート」という単位が使われていました。
なるほど、現実世界においてもたしかにメートル法を使っていない国はある。
で、とある作品は鈍器のような分厚さで計10巻にもおよぶ大長編だったのですが、わたしは最後までその作中で距離をうまくイメージすることができませんでした。
もちろん最初は「フィート」の長さを調べたりしたのですが、わたしの頭がぽんこつなことを踏まえたうえでも、とにかく覚えづらい、想像しづらい。
何度調べてもうまく距離がイメージできないので、最終的には数値だけをみて「なんとなく遠い」「なんとなく大きい」「ちょっと小さいかな……?」と勝手に解釈してほぼ読み飛ばしていました。
こういう読み方をしても十分に物語に引き込めるストーリーが書けるならあるいは問題ないですが、デメリットであることに違いはありません。
せっかく作者が生み出した世界についてうまく知ることができないというのは、読者がその作品が好きであればあるほどストレスになります。
ということで、オリジナル単位を使う際はせめてわかりやすくしておくことが重要です。
解消法:ちょっとメートルに寄せる
で、オリジナル単位を使用したときのデメリットについても解消法があるのでご紹介します。
そのうちのひとつがこれ、オリジナルだけどちょっと名前をメートルに寄せる。
最近読んだ異世界モノの作品の中で、「メッツァ」という単位が使われていました。
注釈で「※1メートル」みたいな感じに書かれていたような気もします。
メッツァ。メートル。
うん、なんとなくわかるよね。
こんな感じに、最悪注釈を読まなくても「ああ、1メートルくらいのことかな?」と予想できるオリジナル単位にしておくと想像しづらさを緩和できる。
よくある「メルトル」とかでももちろん良いとは思いますが、「メルトルってもうほとんどメートルじゃん」と思わないでもないのでもうちょっとぎりぎりを攻めたほうが良いと思います。(あと使い古されてる)
注釈つけるつけない問題もあるのですが、それはひとまず置いておいて、せっかく単位をオリジナルにしてまで世界観を大事にするのであれば、ほんのちょっとまじめに単位について考えてあげるといいのではないでしょうか。
余談:距離の単位の悩みにはこういう方法もある
余談としてちょっと上級者向けの方法についても考えてみます。
上級者向け:そもそも単位表記を使わない
メートルも使いたくない。
オリジナル単位もデメリットを打ち消そうとするとやっぱり違和感が出る。
そう思った人にはこの「そもそも単位表記を使わない」方法をおすすめします。
単位表記を使わないというのがどういうことかというと、比喩を駆使するということ。
たとえば、
- 「山のように大きなドラゴン」
- 「そんな手のひら大の魔石じゃ金にならねえよ」
とかです。
①に関してはどんな山を想像するかにもよりますが、山とするからには相当大きいのだろうというイメージはできます。
②はもっとわかりやすくて、同じ人間であれば手のひらというのはそう大きさに違いが出るものではありません。
こういった比喩を使うことで、意外と単位表記をせずにその物の大きさを描写することができます。
ほかにも「なんとなく想像できそうなもの」を基準にたとえるとかもあります。
- 「馬で三日ほど走ればつく」
- 「渡し船でもあれば越えられる川」
①であれば「結構遠いけど遠すぎはしないのかな……?」、②であれば「泳いで渡るのはきついけど対岸が見えないほどじゃない川」とそれなりに想像することができます。
このように、いっそのことぎりぎりまで単位表記を使わないというのも手だとわたしは思っています。
ただしこれは結構むずかしくて、表現することに慣れていないと逆に頭を悩ませることがあるので上級者向けと言えるでしょう。
作家の腕の見せどころ!
まとめ:異世界モノの距離の単位は一長一短
異世界モノって自由に書けると思いがちですが、まじめに考えると意外とこういう落とし穴があります。
もちろん突き詰めれば異世界人がそもそも同じ言語を使っていること自体があれなのですが、考えすぎると元も子もないので適度に妥協することが肝要でしょう。(ただしトールキンは除く)
余談ですが、わたしは異世界モノ(ハイファンタジー)を書くにあたって、いわゆる横文字もできるだけ使わないようにしていました。
今は読みやすさと重視してあえて使うようになってきたところですが、それでもできるだけ、あまり一般的な物ではない横文字は使わないように意識しています。
とはいえ最近はそういった視点を逆にネタにした作品なども見受けられるので、おもしろいなぁと思う日々。
ともあれ、こういうことを考えること自体は作品の質向上においては悪くないので、もし自分の作品を持っている人がいればちょっと見返してみるといいかもしれません。
さて、今回は単位についてお話しましたが、こういうまじめに考えるとキリがない現実世界と異世界の細かな差異については、
- いっそのことできるだけ書かない
- 不自然にならないくらいに表記しない
というのもアリなので、腕に自信のある方は試してみてください。
あとは本当に伝えたいストーリーを見せるために、細かな部分はあえて妥協する勇気も持つといいかもしれませんね。