異世界転生モノの良い所と悪い所を作家が分析してみた
やあ、葵です。(@Aoi_Yamato_100)
昨日異世界に行ってたんだけどあいつらとは話が合わなかったよ。
異世界転生もの、流行ってますね。
わたしは実際にこの異世界転生という設定を使って、『百魔の主』というファンタジー小説を出版しました。
この記事は、実際に異世界転生小説を出版したわたしが、現在流行りに流行りまくっているこの『異世界転生』という設定に関してクソ真面目に分析してみたものになります。
これから異世界転生ものを書こうと思ってる人には参考になると思うので、ぜひお付き合いください。
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異世界転生モノの良いところと悪いところ
異世界転生ものを分析するにあたって、まずはこの設定の良いところと悪いところを分けてみたいと思います。
簡単にまとめるとこんな感じ。
異世界転生の良い所
- 未知の世界への入口を簡単に作ることができる
- 読者が感情移入しやすい現代人を主人公にできる
- 読者と主人公の出発点が同じ
主に読者から見た『物語への入りやすさ』が異世界転生ものの大きなメリットです。
次に悪いところ(デメリット)に関してまとめてみます。
異世界転生の悪い所
- 転生したキャラクターが異世界になじまない
- 転生に意味がないと没入のノイズになりかねない
- 世界観がゆらぎやすい
- ある程度の独自性がないと一部には飽きられる
異世界転生はエンターテイメントとしての良いところを豊富に含んでいる栄養満点の設定ですが、だからといって考えなしに乱用するとうっかり足元をすくわれることがあります。
だから、これから異世界転生を書こうという人は、できればこの悪いところについてよく覚えておいてください。
異世界転生の良いところを個別に見てみる
ここからはそれぞれ異世界転生の持つ性質について個別に説明していきます。
上でも述べたとおり、異世界転生は考えなしに使っても良いところは享受しやすいです。
- ここではないどこかへの冒険
- 人間の持つ根源的な変身願望の充足
- 記憶を引き継いでニューゲーム(俺TUEEE)
こんなんおもしろいに決まってる。
エンターテインメントとしての創作物に求められる要素をかたっぱしからぶち込める設定なので、人に求められやすいのは当然です。
実際それは今の出版物の流行りが証明していますし、そもそもとして「異世界」と「生まれ変わり」の設定に人気があるのは今にはじまったことではありません。
①未知の世界への入口を簡単に作ることができる
もし、昔憧れた『剣と魔法の世界』へ生まれ変わることができたなら
そんな想像を誰もが一度はしたことがあると思います。
人には多かれ少なかれ未知の世界への憧れ、好奇心があります。
ファンタジーが好きな人なんかは特にそうでしょう。
魔法に対する憧れや、超高度に発達した科学文明生活への憧れなんかも同じたぐいのものです。
で、もしそんな世界を実際に体験できたら、それはとても心躍るものではないでしょうか。
異世界転生というのは、『死』という装置を使って、そういった別の世界への冒険を簡単に演出することができます。
この『死』は、特別な能力も、地位も身分も必要なく、誰にとっても平等に訪れるものです。
そのうえ実際に死んだらどうなるかを誰も知らないという、無限の想像性を担保してくれているわけです。
これは『冒険への入口』としてこれ以上ない舞台装置です。
②読者が感情移入しやすい現代人を主人公にできる
一千年前に作られた物語でなければ、基本的にそれを読むのは今を生きる人です。
つまるところ「現代人」です。
そもそも小説というのは、基本的に感情移入して楽しむ媒体で、作中の物語を擬似体験できるところに大きな強みがあります。
この点、今を生きる読者と同じ価値観を持った人間を主人公にできるというのは大きな強みです。
③読者と主人公の出発点が同じ
これ、意外と重要です。
さきほども述べましたが、小説はキャラクターに感情移入して読む人が多いです。
このときに大事になるのが読者と主人公の心の距離です。
たとえば、魔法が存在する世界で、主人公がとある魔法使いだったとしましょう。
その主人公はすでに魔法使いとして、その世界に魔法があることになんの疑問も持っていません。(逆に持っていたらおかしい)
当たり前に魔法を使い、当たり前に魔法を使います。
一方で、読者はそこが魔法のある世界であることをあとから知ります。
このときすでに、主人公と読者の間には知識や常識のうえで乖離があるわけです。
その乖離をなくすために説明の描写を加えるわけだけど、やりすぎると不自然になる。
アホなキャラクターを隣において誰かに説明させるとかが有効でしょうか。
そうだね、ワトソン君だね。(このドラゴン口が悪いな)
一方、異世界転生の場合は主人公が読者と一緒に新しい世界に行きます。
つまりスタート地点が同じなのです。
なにか新しいことを知るのも主人公と同時だし、驚くポイントも読者と同じでしょう。
このシンクロは感情移入の助けになりますし、結果として物語への没入感を強めます。
また、設定の説明についても主人公がするわけではなくほかのキャラクターから受けることがほとんどになるので、不自然になりにくい。
現代人の異世界転生は、その構造自体がすでに作品にのめりこむのに適した状態にあるのです。
異世界転生の悪いところを個別に見てみる
さて、次に異世界転生の悪いところを個別に見ていきます。
異世界転生の悪い所
- 転生したキャラクターが異世界になじまない
- 転生に意味がないと没入のノイズになりかねない
- 世界観がゆらぎやすい
- ある程度の独自性がないと一部には飽きられる
最初にも言いましたが、これから異世界転生ものを書こうと思っている人にはこちらのほうをよく覚えておいてほしいです。
あわせてこういった悪いところが出ないためにはどうすればいいかという対応策も説明するので、ぜひ参考にしてください。
①転生したキャラクターが異世界になじまない
異世界転生の「良いところ」で、読み手と同じ価値観を持つ現代人を主人公にできるのが異世界転生ものの強みだ、とお話しました。
しかし、逆にそれがデメリットになることもあります。
たとえば、転生した先の異世界がいろんな意味で厳しい世界だった場合。
- 年がら年中戦争をしている
- 疫病で人が死ぬのが日常茶飯事
- 侮辱されたら剣を抜け、決闘だ(日本にもそんな時代が実際にあったそうですね)
このように、今の日本の状況からしたらとても考えられないことが起こる世界に行ってしまった場合は、いわゆるリアリティが欠如しやすい状況に陥ります。
元々その世界で生まれた登場人物であれば、その世界の厳しい価値観に染まっていても違和感はありません。
しかし、転生によってやってきた現代人(日本人と仮定)は、
- 戦争経験なし
- 即死級のパンデミック経験なし
- 剣を持ってたら銃刀法違反
という世界で暮らしてきたわけであって、もしここでほかの現地人キャラクターと同じように目の前の出来事を受け入れてしまったら、
「なんでこいつはこんなに普通でいられるんだ」
と読む人に違和感を覚えさせてしまいます。
これこそリアリティの欠如というもので、もしそういう違和感を一度でも覚えてしまえば、読者は物語への没入感を即座に失い、作品は求心力を失います。
異世界転生ものにおいては、そのメリットと同時に、こうした状況が起こりやすいのが大きなデメリットとも言えるでしょう。
解消するためには:きっかけ作りが必要
このデメリットの解消方法の一つは、なんらかの出来事を起こしてその世界に順応させることです。
いうなれば「きっかけ/契機」を作ることですね。
ちなみにこれは転移よりも転生のほうがやりやすいと思います。
なぜなら転生は、たいてい場合生まれ変わって子どものころからやり直すからです。
中身の年齢についてはひとまず置いておきますが、転生による子ども時代からのやり直しは、十分な時間を使ってそのキャラクターをその世界の価値観に馴染ませることができます。
転移は突如として異世界へ行き、間を置かずにその世界のルールに直面するので、葛藤の描写が難しいのです。
元からどこかが狂った人間にするなら話は別だけどな。
ヒャッハー! やりたい放題だー!
②転生に意味がないと没入のノイズになりかねない
転生は舞台装置として圧倒的な性能を誇るゆえに、こうしてたくさん使われています。
ものによっては、
「別にそれ転生させなくてもよくない?」
というものも中にはあるのが事実です。
けっしてそれが悪いというわけではないのですが、転生がまったく物語の本筋に関わらないものであった場合、それ自体が物語にとってのノイズになる可能性があります。
「人気だからとりあえず転生させたんでしょ」
読者にそう思わせてしまった時点ですべてが台無しであることを覚えておいてください。
この感想は物語から抜けてしまった人しか抱かない感想で、作者の意図というメタ的な要素について考えさせてしまった時点で、作品は求心力を失っています。
これは、今の世の中に異世界転生ものがたくさんあるからこそ起こり得ることです。
読者は作者が思っているよりずっと明敏で、人気だからとりあえず使うという安易な方法を取ると、それを見透かされるものと思ってください。
解消するためには:意味を作る or 意味があるふうに見せる
一番の解決方法はその転生に意味を作っておくことです。
- どこかの高名な魔術師が自分の知識を遺すために魂を呼んだ
- 異世界人を実験材料にするため
- 異世界人にしか宿らない力があって、それを利用するため
全体的にネガティブだなっ!
わたしの趣味趣向が偏ってるんだと思う。
ともあれ、こうした作中世界に関連する意味を作っておくと、異世界転生はノイズになりにくいです。
もし異世界転生という設定を使うのであれば、なんらかの意味や理由を構想の段階で簡単につけておくといいでしょう。
それが大きく本筋に関わるものでなくても、十分に効果は発揮します。
③世界観がゆらぎやすい
これは大きな世界そのものを描きたいと思っている場合に出てくる問題です。
いわゆるエピック・ファンタジー系での話ですね。
一応簡単に説明すると、エピック・ファンタジーとは、まるで別の場所に本当にそういう世界があるように作りこまれたファンタジーのことです。
- 「ここはこういう立地で……」
- 「だからこういう文明が発達して……」
- 「人の性格はこうなるだろう」
――と、さまざまな要素から世界そのものを作るわけです。
しかし、ここに現代からの来訪者(転生者)がいると、現代倫理や現代知識の横槍によって、せっかく作り上げた世界観がゆらいでしまう可能性があります。
極端な例ですが、いわゆる中世ヨーロッパ的な世界観で、
- (暑い……こんなときエアコンがあればなぁ……)
- (こういうの、テレビで見たことがあるぞ)
なんてことを、たとえ回想ですら口にしようものなら、それだけで世界観は崩壊の兆しを見せます。
今の時代によく使われる和製英語なんかもかなり危険。
解消するためには①:語句に気を遣う(カタカナは特に注意)
世界観の揺らぎが生じないように、とにかく使う語句(単語)に気を遣うことです。
普段カタカナで表現しているものに関しては特に注意してください。
- これはこの作品世界で使っても違和感がない言葉か?
- ほかの現地人のキャラクターにも意味は伝わるか?
もしカタカナで書いてしまった単語があるなら、そういう視点からいま一度その単語が作品世界にヒビを入れていないか確認してみると良いでしょう。
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解消するためには②:いっそのこと転生者を常識知らずにするのも手
転生/転移者である主人公をいっそのこと常識知らずにするのも手です。
知識としてはもしかしたら知っているけど、あまりそれを活用することがない状況にいた。
キャラクターそのものにそういうバックボーン(背景)がしっかり設定してあると、不思議と書いていてもそういう単語が出てくることは少なくなります。
ちなみにわたしが出版した『百魔の主』の主人公はこの方法を取っています。
わたしはエピック・ファンタジーが好きなのでそういう世界を描きたかったのですが、それと同時に主人公を転生者にしたいという思いがありました。
そのときやはりこの問題にぶち当たり、「この主人公がこの世界に馴染むためにはどうすればいいか」をうんうんと考え続け、結果的にああいう形になったわけです。
ちなみに無料で読めるWeb版のほうでは、【①主人公が作品世界になじまない】について主人公であるメレアが葛藤しているさまも見れます。
まあこれはメレアの葛藤であると同時にわたしの葛藤でもあったので、書籍化に際して結構削りましたが、Web版のほうではあえて残していたりするので、気になる方は読んでみてください。
百魔の主
魔王 群像劇 チート 英雄 転生 異世界 戦記 国家/民族 成り上がり 魔王連合 英霊 R15 残酷な描写あり 異世界転生
④ある程度の独自性がないと飽きられる
人気なものは多くの人が書きます。
すでに異世界転生モノは飽和状態と言っても過言ではありません。
同じようなことを書いても、読者はわざわざ目を向けません。
だってすでにおもしろい異世界転生モノがたくさんあるから。
異世界転生は読者を集める大きな力を秘めていると同時に、飽きられる要因にもなります。
もし異世界転生を書くなら、なんらかの独自性を少しでもいいから入れてみると良いでしょう。
「なんか今までの異世界転生ものと違うぞ」と思わせたら成功です。
まとめ
ということで、異世界転生について、実際に異世界転生もので出版した作家としてまとめてみました。
改めて異世界転生の良いところと悪いところを書くとこうなります。
異世界転生の良い所
- 未知の世界への入口を簡単に作ることができる
- 読者が感情移入しやすい現代人を主人公にできる
- 読者と主人公の出発点が同じ
異世界転生の悪い所
- 転生したキャラクターが異世界になじまない
- 転生に意味がないと没入のノイズになりかねない
- 世界観がゆらぎやすい
- ある程度の独自性がないと一部には飽きられる
これから異世界転生ものを書く!という人は、特に「悪いところ」に気をつけながら、この栄養満点の設定を使ってみてください。
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